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ストーリー

 オハイオ州の小さな町、サンダスキーの老人ホーム。
 パトリック・ピッツェンバーガー(ウド・キアー)は、静かな余生を送っていた。ホームの職員から何か注意を受けても聞き流し、日課といえば食堂の紙ナプキンを自室に持ち帰り、丁寧に折り直すことくらい。しかしパトリックの心には過去の思い出がつねに去来していた。ヘアメイクドレッサーだった彼のサロンは街でも大人気。「ミスター・パット」と呼ばれ、顧客から愛されていたこと。そして愛する恋人デビッドとの生活と、早くに彼を失ったこと……。

 そんなパットを、ある日、弁護士のシャンロック(トム・ブルーム)が訪ねて来る。かつてのパットの顧客で、街でも一番の金持ちであったリタ・パーカー・スローン(リンダ・エヴァンス)が亡くなったというのだ。リタは「死化粧はパットに頼んでほしい」と遺言書に残していた。シャンロックによると、その報酬は2万5000ドルだという。驚くパットだが、リタへの複雑な思いや、すでに現役を引退した現実から、「ぶざまな髪で彼女を葬って」と言い捨て、申し出を断ってしまう。

 しかしパットはリタの遺言に動揺を隠せない。思い出の写真やジュエリーなどを久しぶりに手に取って眺めるうちに、輝いていた時間に思いを馳せる。そして同じホームに暮らす女性の髪を美しくセットし、自分の腕が衰えていないことにも気づく。本能に突き動かされるように、パットは老人ホームを抜け出すのだった。

 街の中心部までの長い距離を歩き続けるパット。デビッドの墓も訪ね、行く先々の人たちとの出会いを通し、リタの遺言を叶えてあげたい気持ちが芽生えいく。しかし、以前に暮らしていた街は様変わりしていた。デビッドと暮らした家の場所へ行くと、そこは更地になっており、新たな所有者に尋ねたところ、元の家に残っていたものはパットの帽子だけだと知らされる。エイズで亡くなったデビッドは遺言書を残しておらず、土地の抵当権は親族の甥に引き継がれていたのだ。

 リタの孫ダスティン(マイケル・ユーリー)とも会い、改めて協力を求められたパットは、弁護士のシャンロックの元へ向かい、リタのメイクアップを引き受けると伝える。道具を揃えるために前借りを頼むパットに対し、シャンロックはポケットマネーの20ドルを手渡すが、パットは現金をすぐにカフェのワインで使い切り、化粧品は万引きで調達する。しかしどうしても必要なヘアクリームだけは手に入らなかった。時代遅れとなったその商品を扱っていたのは、街でも人気のヘアサロンで、かつてパットの元で働いていたやり手のディー・ディー(ジェニファー・クーリッジ)の店だった。ディー・ディーと言い争った末に、パットはそのヘアクリームを貰い受ける。

 リタのメイクアップへの準備は整いつつあったが、老人ホームから出てきたジャージ姿で向かうわけにもいかない。パットは小さなブティックに立ち寄ると、偶然にも店主は、パットのヘアサロンに一度だけ来たことがある女性だった。パットも彼女を覚えており、感激した店主は「いつか似合う人が現れると思って取ったおいた」というグリーンのスーツを彼にプレゼントする。自分にぴったりのスーツに満足し、ドラァグクイーンとしてステージにも立った懐かしのゲイバーも訪れるパット。やがて意を決して葬儀場へ向かうが、最後の最後に、彼の心は揺れ動くのであった――。